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第4回研究会

11月1日、関西大学にて第四回学際魔女研究会が開催されました。
今回は2014年4月に刊行されたW. ベーリンガー著『魔女と魔女狩り』(刀水書房)をとりあげました。
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ベーリンガー教授はドイツのザールラント大学近世史講座の教授、ドイツ語圏の研究者を中心にヨーロッパ、アメリカ、イスラエル、アフリカなど世界中から参加のある学際魔女学会(AKIH; Arbeitskreis interdisziplinäre Hexenforschung) の会長も務める魔女研究の泰斗です。本研究会メンバーもベーリンガー教授とは個人的に面識があり、本書の刊行には大変注目してきました。

一人目の報告者、田島篤史氏は谷口智子氏の研究(『新世界の悪魔-カトリック・ミッションとアンデス先住民宗教の葛藤』2007年)や黒川正剛氏の研究(『魔女とメランコリー』2012年)など近年の日本の魔女研究の流れにおける本書の意義を指摘しました。魔女研究の対象地域(非ヨーロッパ世界)、あるいは分析手法(メランコリーなどの医学概念、視覚文化論からのアプローチ)の広がりを指摘したうえで、人類学の成果をふんだんに摂取した本書はそのような旧来の魔女研究の枠を抜け出す流れに位置づけられると評価しました。ヨーロッパのみならず南北アメリカ、アフリカ、アジア、イスラーム諸国を対象とすることは、本書の特徴である「ゆるやかな<魔女>定義」を用いることで可能となることを踏まえた上で、そのゆるやかさが新たな問題提起に有用である一方、議論から緻密さを奪うという両義性があることにも言及しました。その新たな問題提起、議論の土台となるはずである本書に続く成果が原書の出版後10年余を経た今も現れていないことも問題点として指摘されました。

二人目の報告者、黒川正剛氏は「歴史学と人類学の架橋」という観点から本書を取り上げ、近年の人類学における呪術研究の動向に触れつつ論じました。氏は白川千尋「言葉・行為・呪術」(白川千尋・川田牧人編『呪術の人類学』(人文書院、2012年)所収)をひきつつ、2000年代からアフリカの呪術・宗教研究が活況を呈しており、とりわけ呪術の「近代性modernity」が着目されていると指摘しました。「呪術は決して近代性とかけ離れたものではなく、むしろ逆にそれを構成するものとして存在する」ということが、人類学における呪術研究の共通理解となっていることを踏まえると、本書で著者が述べるような「ヨーロッパ世界が経験した魔術信仰からの解放」という理解には疑問符が付されました。

またwitchcraftやsorcery、magicなどの用語が定義なしに用いられていることについても指摘がありました。翻訳の面では、これらの用語に人類学における定訳とは関係なくそれぞれの日本語が当てられている点にも批判的なコメントが寄せられました。

ディスカッションでは学際研究の意義、宗教改革の影響、修道会の役割、近代性の問題、法学や神学における「意志」の問題など、様々なトピックについて意見が交わされました。

次回の研究会は1月頃開催される予定です。