月別アーカイブ: 2015年12月

魔女関連刊行物のお知らせ

本研究会のメンバーである小林繁子氏による単著『近世ドイツの魔女裁判 民衆世界と支配権力』が2015年12月15日、ミネルヴァ書房より刊行されました。

本書は、近世ドイツの国家による支配とはいかなるものであったのかを、魔女裁判という実践を通じて明らかにする。魔女迫害を可能とした枠組みとは何か。魔女迫害を求める民衆はどのような論理と手段を用いたのか。当局は民衆の迫害要求にどのように応えたのか。民衆の声を反映する「請願」と、それに対する君主の「ポリツァイ条令」との循環的な働きを検討することで、相互応答的なヨーロッパの近世的支配のダイナミズムを描き出す。(内容紹介ページより)

近世ドイツの魔女裁判

第8回研究会

11月28日、愛知県立大学サテライトキャンパスにおいて第8回学際魔女研究会が開催されました。

今回はまず4名の方に報告していただき、コメント、および討論を行いました。
報告のタイトル・内容は以下の通りです。

田島篤史氏 「魔女とメディアと悪魔学―中世末の帝国都市ニュルンベルクを例に―」
 本報告では悪魔学書『魔女への鉄槌』のメディアとしての側面に着目し、ニュルンベルクにおける魔女裁判の中でいかに機能していたかを検討した。また本書の著者と製作者および市参事会との関係に注目し、本書の製作・受容状況を考察した。

黒川正剛氏 「表象としての魔女」
 中世末から18世紀の西欧社会における魔女を「表象/代替(representation)」(サイード)として捉え、多様な図像史料からその内実を検討した。当時、視覚イメージは魔女を具象的に表現するにあたって大きな役割りを果たし、想像上の産物である魔女を「認識できるものに、信じられるもの」にしたのである。視覚イメージによって、想像が現実/真実に転化していったといえるだろう。

牟田和男氏 「近現代の大衆的魔女像とフェミニズム」
 実証的魔女研究とは別に19世紀から現代に至るまで欧米で広く普及している大衆的魔女言説を取り扱った。特にその現代宗教としての側面と、フェミニズムによる受容、そしてこれら魔女言説の認識枠組みと方法論上の問題点にも言及した。

谷口智子氏 「不義密通者、魔術師、反逆者たち―17世紀ペルー・チャンカイの事例」
 本発表は、アナ・サンチェスによる著作『不義密通者、魔術師、反逆者たち―17世紀ペルー・チャンカイ』における偶像崇拝撲滅巡察の事例から、二つ特徴的な事例を選んで紹介した。いずれも時代は17世紀中頃であり、悪名高い巡察使ファン・サルミエント・デ・ヴィヴェロによる巡察記録から提示したものである。今回、筆者は植民地期ペルーにおける偶像崇拝・魔術巡察の歴史について概略した後、チャンカイ地方に関する史料について、有名なケースを二例紹介した。①姦婦として訴えられたマリア・アリエロと、②反逆者として訴えられたカシーケ層のドン・フランシスコ・ガマラである。いずれもインディオの実力者で、比較的裕福でコミュニケーション能力の高い人物たちであり、他のインディオへの影響力が大きかった。カトリックの巡察使ヴィヴェロとしては、影響力のあるインディオを「偶像崇拝」や「魔術」として訴え、その財産を没収することは、キリスト教への改宗と富の集約という二つの側面で(まさに植民地主義の名目と実利の点で)理にかなっていたことだったのである。

次回の研究会は2016年3月頃開催される予定です。