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第13回研究会

あけましておめでとうございます。今年も魔女研をよろしくお願いします。

昨年11月25日、愛知県立大学サテライトキャンパスで第13回研究会が開催されました。
各報告の要旨です。

第一報告
「1692年セイラムの魔女裁判とその遺産」久田由佳子(愛知県立大学)

 1692年、北米マサチューセッツ湾植民地のセイラム・ヴィレッジ(現マサチューセッツ州ダンヴァース)で、3人の女性に対する魔女告発から始まった魔女狩りは、わずか数ヶ月で同植民地北東部のエセックス郡全域に広がり、絞首刑、獄死や拷問死も含め20人以上の死者を出した。数人の少女たちの異常行動をきっかけとする、この集団ヒステリーは、1950年代に吹き荒れたマッカーシーイズムの本質とも重なり、アーサー・ミラーがこの事件を題材に戯曲『るつぼ』を執筆したことはよく知られている。 
 本報告では、複数の先行研究によりながら、この事件の背景にある英本国・植民地関係(名誉革命の余波)、農村共同体内部の経済的・政治的軋轢、植民地における先住民戦争、事件に大きく関わった人物(没落した砂糖プランターから転身したパリス牧師とその奴隷で先住民のティテュバら)の出自などを明らかにしながら、この事件を概観した。さらに、同じ共同体の中で告発者と被告発者として対立したセイラム・ヴィレッジと、裁判の舞台にこそなれども、住民に当事者が少なかったセイラム・タウン(現マサチューセッツ州セイラム)が、その後、この事件をどう顕彰していったのか、1992年の300周年記念行事を中心に触れた。

第二報告
「ダニエル・デフォーと超自然―悪魔・魔術に関する真実と迷信―」杉田望(京都大学大学院)

本報告では、『悪魔の政治史』『魔術体系』におけるダニエル・デフォーの悪魔・魔術に関する見解を検討した。デフォーは、魔女迫害の勢いが衰退し、悪魔に対する信憑性も薄れていった時代を反映し、悪魔の存在を認めたうえで人間の精神のうちに内在化された悪魔像を『悪魔の政治史』によって描き出した。『魔術体系』では、悪魔の手下という役割を失った魔女や魔術師はその姿を消し、魔術師や占い師を名乗るペテン師、詐欺師だけが残されたと説明した。こうしたデフォーの悪魔観や魔術観が、オカルト関連の著作以外にも反映され、『ペストの記憶』では、予言や占いなどを迷信とみなす一方で、神の超自然的な力の現世への影響力については真実であるという見解を示していた。今後も、デフォーの超自然に関する認識と、真実と迷信の区別をどのように行っているかの検討をすすめ、デフォーの超自然観はこれまでの近代人デフォーの評価にいかなる影響を及ぼすのかを明確にしていく。

次回の研究会は、3月20日(水)関西大学で開催の予定です。