月別アーカイブ: 2017年1月

科研共同研究会(第10回研究会)

2016年12月18日(日)、愛知県立大学サテライトキャンパスにて、科学研究費助成事業(基盤C)「近世のヨーロッパとラテンアメリカにおける社会的周縁者の創出とメディア」(代表:黒川正剛)第1回共同研究会(第10回学際魔女研究会と共催)が行われました。
報告者と報告内容は以下の通りです。

黒川正剛(太成学院大学)「共同研究の全体構想について」
共同研究の共通認識としておさえておきたいメディアと社会的周縁者に関する概念整理を行った。近世ヨーロッパとラテンアメリカにおけるメディアのあり方と当該社会に生きる人々の関係性を研究することは、知のネットワークやコミュニケーションのあり方、ジェンダーや階級の問題に光を当てることになる。また社会的周縁者に関する研究は、当該社会で差別化を推進する社会的イデオロギーを解明することにつながる。ヨーロッパとラテンアメリカが「近代化」するなかで、メディアと社会的周縁者が切り結ぶ関係について議論を深めていきたい。

楠義彦(東北学院大学)「政治的弱者から社会的周縁者へ」
報告者はかつてランカスタのブランデル家を中心にテューダー・ステュアート時代のイングランドの国教忌避者について研究を行った。その際、国教忌避者は自らの意思を表明する政治的手段を持たない政治的弱者であることが明らかとなった。本共同研究は部分的には政治的弱者である魔女を中心に、社会的周縁者のあり方を明らかにするものである。イングランドでは1950年代以降「中央」と「地方」というIn-Out論争の伝統があるが、周縁者は社会的に形成される存在である。周縁者意識を作り上げるものとしてのメディアに注目し、日常的実践の中で魔女を捉える必要性を提起した。

小林繁子(新潟大学)「神罰の聖と俗:いかに魔女を罰するべきか」 
本報告では、ファルツ選帝侯領における魔女と神罰をめぐる言説を悪魔学論文と法令という二つのメディアから分析した。ハイデルベルク大学教授ヴィテキントの著作では、災厄は神による試練または罰であり、魔女は実際には害悪を与ええないとされた。他方1582年のファルツの刑法規定では魔女が害悪をもたらしうるという「害ある他者としての魔女」認識を示しつつ、厳密な証明を求めるなど手続き上の逸脱を許さなかった。裁判における逸脱を防ぐことにより神の怒りを回避しうるという神罰への畏れは結果的に魔女裁判の抑制へとつながったのである。今後はこのような規範としてのメディアが実際にどのように受け入れられていたのか、法学者による鑑定書なども含め検討する予定である。

福田真希(中部大学)「ポレ一味の公開処刑とメディア」
本報告では、1909年1月11日にフランス北部の町べチューヌでおこった、4名同時の公開処刑とそれを報ずる新聞メディアについて考察した。そもそも、このような事件報道は、中世後期から近世にかけての瓦版に端を発しており、1730年にフランスで生じた同国最後の魔女裁判、「カディエール事件」が、初めて司法とメディアが結びついた事件として知られている。本報告は、このことを前提とし、メディアが大きく発展した19世紀後半から20世紀初頭に視野を拡大することで、改めてメディアによる周縁者の形成について考察しようとする第一歩として位置づけられる。

谷口智子(愛知県立大学)
「セクトと背教-C・アルボルノス『功績報告書』の証言から見るタキ・オンコイ、ワカ、偶像崇拝-」
「タキ・オンコイ」は、ケチュア語で「歌い踊る病」を意味し、1560年代半ば以降、ペルー・クスコ管区ワマンガ地方を中心に広がったとされるインディオの宗教運動とされている。
ペルーの歴史・民族学者ミリョーネスがセビーリャのインディアス総文書館で発見したタキ・オンコイ関係史料は、クリストバル・デ・アルボルノスというカトリックの一司祭が本国スペインに送付した『功績報告書』と呼ばれる性質のものであった。
果たしてタキ・オンコイはメシアニズム的運動だったのか(それを批判する視点も含め)。そして史料はプロパガンダ的だったのか。本発表はそれらの視点には直接関わらない。少なくとも、1570年、77年、84年の『功績報告書』の内容から読み取れるのは、描かれている「タキ・オンコイ」のイメージが一貫していない、という点である。
1570年の資料は、①伝統的な宗教的実践、祭り、儀礼、習慣、託宣(スペインによる植民地支配を批判するもの)に特徴があり、②1577年、84年の資料には、踊り、シャーマニズム、託宣(鉱山労働のサボタージュ)に記述の特徴がある。しかし、さらに新しい側面として、③水銀中毒の可能性(アルボルノス『功績報告書』77年におけるオルベラ、ヒメネス証言、モリーナの『インカの神話と儀礼』1564-65年頃)について論じたい。

次回の研究会は5月頃開催予定です。