月別アーカイブ: 2015年8月

第7回研究会

8月25日、愛知県立大学サテライトキャンパスにて第7回学際魔女研究会が開催されました。

今回はまず前回からの新規メンバーである佐々木優衣氏の研究報告をしていただきました。
続いて、牟田和男氏による、大衆的に流布している「魔女神話」についての報告が行われました。

報告のタイトル・内容は以下の通りです。

佐々木 優衣氏
迷信から異端へ-中世カトリック教会における魔女教理の変遷-」

ローマ・カトリック教会(以下、教会)による「異端者としての魔女」についての教説が、どのような神学的教義に基づいて唱えられたか、ということを研究するにあたって、本発表では教会と、また中世最大の神学者と言われ教会の教義に多大な影響を与えたトマス・アクィナスがそもそも異端をどのようなものとして、どのように取り扱うべきだとみなしていたのかを概観した。
アクィナスによると、教会において正統な教義を決定する権威は教皇に存する。中世教会における異端者のセクト、またその主導者に対する審判は、公会議首位主義が権力を持った15世紀頃を除いて、教会会議や教令を通して、教皇によって行われていた。一方それぞれの異端者に対する裁判の方法は、長らく明確な規定が存在しなかったのだが、1184年のヴェローナ教会会議以降、徐々に整備され、強化されていくことになる。
アクィナスの『神学大全』は、異端審問の方法の整備に伴ってその手引書が整えられていくのと概ね同時期にあたる1267年から73年に執筆された、未完の書物である。アクィナスはそれにおいて、異端を異教やユダヤ教同様不信仰の一種であり、また異端者は他の不信仰者と異なり一度キリストの信仰を告白しているゆえに最も重い罪を犯している不信仰者であると見なす。そのような不信仰者は、他の信者の救いのために処罰されるべきであり、彼らが真に立ち帰るのでない場合は、死によって世界から取り除かれるべきであると厳しく論じる。
教会によって、後に魔女は異端者として裁かれ、処刑された。教会における異端問題は古代教会から続く長い歴史を持った問題だが、その異端と見なし得る見解の内容、処分の方法等は時代による変化が見られる。その変化はどのような教理の上に生じたのか、更なる理解を深めることが今後の課題となる。

牟田 和男氏
魔女・ロマン主義・フェミニズム―フェーリックス・ヴィーデマンの所論を読む」

魔女と魔女迫害は学術的な専門家以外の人々にも強いイメージ喚起力を持ってきた。欧米では1980年代後半より本格化した実証的魔女迫害研究とは別に、様々な社会運動、宗教運動の中で魔女について論じられている。報告ではF・ヴィーデマンの所説を紹介することにより、大衆的な魔女像と経験科学、神話と宗教的アイデンティティーとの関わりを考えることを意図した。
大衆的に流布している魔女イメージにはある共通点がある。「魔女」は実際にいた。魔女は賢女として異教の儀式を行なっていた。魔女は自然と親しむ生活を送っており、特別な知識を持っていた。こうした存在はキリスト教的秩序に抵触すると見做され、教会は魔女を計画的に迫害した。こうした観念をヴィーデマンは「魔女神話」と呼ぶ。
この魔女神話は人種主義的極右から環境主義的フェミニズムに至るまで、時代状況とイデオロギー的要請に従って様々な立場を異にする人々に受容されることになった。これはグリム、バハオーフェン、ミシュレ、ユングらの思想家によって形成されたロマン主義的魔女像を基本型としている。これが20世紀初めの宗教運動、オカルト運動から人種主義、さらにはナチズムにも流れ込み、戦後は人種主義的潮流だけでなく、宗教性の個人化を背景にさらに広い霊性運動、フェミニズムへと広がっていった。
ヴィーデマンは構築主義的観点から魔女神話の本質主義を分析、批判するが、この歴史的魔女神話を保持する人々は実は歴史を問題にしているのではなく、現在の生と自己のアイデンティティーを中心的関心事としている。さらに底流にはアカデミズムの実証主義に対する批判と反知性主義的傾向をも含んでいる。構築主義的視点から象徴解釈の固定性、実証との乖離を指摘するのみでは大衆的神話と実証科学との接点は生まれないであろう。報告では何らかの方向性を示すまでには至らず、問題提起の段階に終わった。今後考えるべき課題としたい。

 

次回の研究会は、11月頃開催される予定です。

日本宗教学会第74回学術大会のお知らせ

日本宗教学会第74回学術大会と魔女関連報告のお知らせです。

日時:2015年9月4日~6日
会場:創価大学中央教育棟

個人報告では、本研究会メンバーの田島篤史氏が報告します。
9月6日(日)13:15ー13:35(第5部会、午後の部第1報告)
田島篤史「人が魔女になる?―『魔女への鉄槌』にみる「契約」―」

その他の大会プログラム、参加費などについては大会HPをご覧ください。

ポスター最終稿(サムネイル)