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第6回研究会

5月30日、名古屋大学にて第6回学際魔女研究会が開催されました。

今回は院生の方々の参加があり、まずは杉田望氏、前田星氏の研究報告からスタートしました。
続いて、研究会メンバー8名による共同研究を念頭に置いた研究紹介・報告が行われました。

それぞれの報告のタイトル・内容は以下の通り。

杉田 望氏
「魔女狩りとジェイムズ6世の『悪魔学』-卒業論文の要旨と修士論文への展望-」
卒業論文では、ジェイムズ6世の『悪魔学』(1597年)の内容を分析し、悪魔学論書としての同書の独自性も検討した。『悪魔学』の内容を検討した結果、同書はヨーロッパ大陸の悪魔学の理論を踏まえた上で、「使い魔」というブリテン島によく見られる文化を融合したものとなっていた。また、ジェイムズによる魔女観念の体系化と『悪魔学』の出版によって、スコットランドの魔女狩りが悪魔学と密接に関わるようになった。

前田 星氏
「近世ヴェストファーレン公領の魔女受任裁判官-ハインリッヒ・フォン・シュルトハイスと魔女裁判開始手続き」
近世ヴェストファーレン公領で魔女受任裁判官として活躍したハインリッヒ・フォン・シュルトハイスの『詳細なる手引き』(1634)から、魔女裁判開始手続と彼の魔女イメージとを再構成した。彼が告発手続からの糺問手続を想定していたこと、さらに例外的な手続を推奨していたこと、それにはキリスト教徒にとっての「裏切り者」という魔女イメージが関わっていたらしいことについて報告した。

小林繁子氏
「魔女から見る中近世史」
中世と近世は互いに分断されたものと捉えられ、その境界には宗教改革があると考えられてきた。しかし、異端審問と魔女裁判が深い相関関係にあり、かつ魔女裁判が近代への萌芽をそのうちに含んでいたとすれば、魔女を通じて中世と近世を取り結ぶことができると考えられる。本報告では、そのような長い視野において魔女を考察するうえで、神罰や瀆神の問題が長期的な思考枠組みとして有効なのではないかと問題提起した。

神谷貴子氏
「異端と魔女の境界-中世後期フリブールにおける異端審問をめぐって-」
本報告では、中世後期スイスの都市フリブールにおいて、同時代に行われたヴァルド派と魔女に対する異端審問裁判の事例から、異端と魔女の境界線上にあった社会の様相を明らかにすることがねらいであった。魔女迫害は都市の領域支配と関連しており、魔女の家族には都市と密接に関係していた、いわゆる「市外市民」も含まれていた。領域拡大のツールとしての市外市民政策と魔女迫害の関係性を市民登録簿等の史料から明らかにすることが今後の課題である。

田島篤史氏
「『悪魔学書の受容』研究における方法論的見通し」
報告者は悪魔学書『魔女への鉄槌』の受容をテーマとしているが、受容論は未だにその手法が確立していないため、まずは理論形成および対象への具体的アプローチの提示が必要である。本報告では、テクスト内分析によって明らかにされる「ソフトウェアの受容」と、テクスト外分析から解明される「ハードウェアの受容」という二側面から書物の受容を捉えることを提唱した。

牟田和男氏
「アルザス中・南部帝国都市の在地司法と魔女迫害」
アルザスの6つの帝国都市についてその魔女迫害を概観。概況の他、各都市の特徴を紹介した。主な点は、1全体的に迫害は苛烈ではなかったが、一部の都市では短期間に集中している、2初期の迫害ではスイスとの関連が疑われる、3学識法曹の役割によって迫害の質と量が異なっている、4悪魔学の直接的影響は今のところ実証できない、5市当局は個別具体的な害悪魔術の立証に注力する傾向がある、6市参事会は帝国の権威と市民との間でバランスをとろうとしていた、等。

福田真希氏
「学際的魔女研究におけるフランス刑事法史学の貢献可能性」
本報告では、研究会全体での活動のなかで、フランス刑事法史を専攻する報告者がどのような貢献をしうるのか考察した。
現在、報告者は主に、フランス北部・フランドル地方における刑事裁判資料を扱っているが、これらの文書の中には魔女裁判の事例も確認されている。18世紀初頭まで、フランスではなくスペイン領にあったこの地域の事例を検討することで、近代フランス国家形成における魔女裁判の意義を明らかにすることができると期待される。

谷口智子氏
「『神への侮辱』解題」
『神への侮辱』(Juan Carlos y Garcia Cabrera, Ofensas a dios: pleitos e injuries, Causas de idolatrías y hechicerías Cajatambo Siglos XVII-XIX, Centro de Estudios Regionales Andinos “Bartolomé de Las Casas”, Cusco, Peru, 1994))は、現在、ペルー共和国リマ市プエブロ・リブレ地区にある、リマ大司教区古文書館の『偶像崇拝・魔術撲滅史料Causas de idolatrías y hechicerías』の17-19世紀の巡察史料のうち、主にカハタンボ地方に関わる文書を集めたもので、19の文書が手稿から活字におこされている。
今回、筆者は植民地期ペルーにおける偶像崇拝・魔術巡察の歴史について概説的に触れた後、カハタンボ地方に関わる史料について、資料名、時期、場所、人物、内容の5点からまとめた概要を発表した。

黒川正剛氏
「中世末から近世にいたる魔女表象の変容」
中世末から近世にかけての悪魔学論文や図像に表現された魔女の表象には、時代の推移に伴ってその内実に変化が見られる。今回の発表では、主に図像史料にもとづいて、異端、ユダヤ人、女性、老人、貧民、インディオと魔女表象との関連性について考察した。悪魔学論文や図像におけるこれらの魔女表象と具体的な裁判に登場する魔女の具体像との比較検討が今後の重要な課題となるだろう。

楠 義彦氏
「イングランドへの魔女狩りの伝播」
イングランドにおける16・17世紀の大量現象としての魔女裁判を考えるにあたって、最初に検討しなければならないことは、大陸で形成された悪魔主義化した魔女信仰がどのようにイングランドに持ち込まれ、浸透していったかということである。今回、制定法、Visitation Articles、悪魔学の文献、学校・教育、医療、歴史記述の観点からアプローチした。特に初等教育で教科書として用いられた書物でのwitchcraftの位置づけについて報告した。

次回の研究会は、8月ごろ開催される予定です。